「推し活」とは、アイドルや俳優、アニメキャラ、VTuber、スポーツ選手など、自分が「この人(作品)が好き!」と思える対象(=推し)を応援する活動の総称です。
ライブやイベントに行く、グッズを集める、SNSで感想をシェアする、配信を視聴するなど、形はさまざまですが、「推しのために時間やお金や気持ちを注ぐ」という点で共通しています。
近年の調査では、5人中1~3人が「現在推し活をしている」と回答しており、もはや一部のオタクだけの文化ではなく、幅広い世代に広がる日常的な楽しみになっています。
その一方で、「推しがいるだけで生きる気力が湧く」「推しがいるから仕事をがんばれる」といった声が多く、推し活は現代人のメンタルヘルスにとっても重要な役割を果たしていると指摘されています。
脳内ホルモンから見る「元気になる」仕組み
心理学や脳科学の視点から見ると、推し活中の私たちの脳では、いわゆる「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質が活発に働いています。有名なものが下記の3つになります。
ドーパミン
達成感やワクワク感を生み出す物質で、新しい情報や限定グッズを手に入れた瞬間などに強く分泌されます。
推しの新曲解禁、チケットの当選通知、「推しが尊い…!」と感じる瞬間は、ドーパミン的な快感がピークになるタイミングです。
オキシトシン
愛情ホルモン・絆ホルモンとも呼ばれ、「大切な存在」とのつながりを感じたときに分泌されます。
本来はスキンシップなどで多く出るのですが、推し活では実際に触れていなくても、推しの存在を思い浮かべたり画面越しに見たりするだけでオキシトシンが出て、安心感や癒やしが得られるとされています。
セロトニン
心の安定や落ち着きをもたらす物質で、規則的な楽しみや、前向きなルーティーンによって分泌が促されます。
「朝起きたらまず推しのSNSをチェックする」「帰宅したら推しの配信を見る」といった習慣は、日常のリズムを整え、心の安定剤として機能しやすくなります。
こうした脳内物質の働きによって、推し活は一時的な快感だけでなく、安心感・安定感・活力を同時に高める「メンタルの総合ビタミン」のような役割を果たしていると言えます。
自己実現と投影――「推しは理想の結晶」
推し活が元気をくれるのは、私たちの「こうなりたい」という自己実現欲求と深く結びついているからだと説明されています。
心理学者マズローは、人間の欲求には生理的欲求から自己実現欲求までの5段階があると提唱しましたが、推し活はその中でも「承認」や「自己実現」といった高次の欲求に関係すると指摘されています。
人は無意識のうちに、自分の理想像や持っていない能力を他者に「投影」する傾向があり、推しはまさにその理想の結晶として機能します。
このように、推しは単なる「好きな人」ではなく、自分の中の理想や願望が凝縮された鏡のような存在です。
その鏡を見続けることで、「自分には可能性がある」「自分も意味のある存在だ」という感覚が強まり、自己肯定感の向上や前向きな行動につながりやすくなります
ストレス対処と感情のガス抜きとしての推し活
現代社会では、仕事や学業、人間関係などで慢性的なストレスを抱える人が少なくありません。推し活は、そうしたストレスに対する「ストレスコーピング(ストレス対処)」の一つとして機能していると説明されています。
- 日常のストレスから一時的に意識を切り離し、推しの世界に没頭することで、心を休ませることができます。
- ライブや配信で一緒に泣いたり笑ったりする体験は、感情を安全に解放する「カタルシス効果」をもたらします。
若者を対象にした調査では、「推し」がいる人は、そうでない人に比べて、推しの存在がストレス解消や幸福感に役立っていると感じる割合が高いことが示されています。
不安やストレスの軽減のために求められているものとして、「夢中になれる趣味や体験」「気持ちを共感してくれる人」が多く挙げられており、推し活はまさにそれらを同時に満たす活動だと言えます。
「仲間」とのつながりが孤独感をやわらげる
推し活は、一人で楽しむだけでなく、「同じ推しを応援する仲間」とつながるきっかけにもなります。
- SNSでの感想共有や「尊い…」という気持ちの分かち合い
- ライブ会場やイベントでの一体感
- オンラインコミュニティでの交流や創作活動
これらの体験を通じて、「自分を受け入れてくれる居場所がある」「ここにいていい」という帰属意識が育ち、孤独感の緩和や自己肯定感の向上につながるとされています。
研究でも、「推しに対する心理的所有感」が、同じ推しを応援する他者への意識や、推し活の継続性、さらには幸福感に影響していることが示されています。
この「心理的所有感」は、「推しは自分にとって特別な存在だ」という一体感と、「推しの成長や成功に自分も責任を感じる」という責任感の二つの側面から構成されるとされます。
この一体感や責任感があるからこそ、「推しのためにもう少しがんばろう」「推しががんばっているから自分も努力しよう」といった前向きなエネルギーが湧きやすくなります。
光と影――依存にならないための視点
もちろん、推し活には光と影の両面があります。心の支えになる一方で、「お金を使いすぎて生活が苦しい」「推しの動向に一喜一憂しすぎて疲れる」といった、依存に近い状態に悩む人もいます。
アイドルファンの心理を扱った研究では、推しへの過度な期待や、理想と現実のギャップがストレスや不安を生む可能性が指摘されています。
推しに自分の理想を強く投影しすぎると、推しが思い通りに動かないときに「裏切られた」「自分の価値が否定された」と感じてしまう危険もあります。
負担を減らすためのポイントとして、メンタルケアの専門家は次のような工夫を勧めています。
- 推し活の予算や時間の「マイルール」を決めて守る
- 推し活以外の楽しみや人間関係も大切にする
- 「推しは推し、自分は自分」と境界線を意識する
推し活が「現実から逃げるためだけの手段」になってしまうと、かえってつらさが増してしまうことがあります。
あくまで自分の生活や心を豊かにするためのスパイスとして、「ちょうどいい距離感」で楽しむことが、長く元気をもらい続けるコツだと言えるでしょう。
まとめ:推し活は「生きる力」をチャージする行為
推し活は、脳内ホルモンの働きによってワクワクや癒やしをもたらし、自己実現欲求や自己肯定感を支え、ストレス対処や孤独感の軽減にも役立つ、多面的な心理的効果を持つ活動です。
大げさに聞こえるかもしれませんが、「推しがいるから、明日も生きてみようと思える」という感覚は、現代を生きる多くの人にとって、とてもリアルで切実なものになっています。
だからこそ、推し活を「ただの浪費」「現実逃避」と切り捨てるのではなく、「自分を支える大事な心のインフラ」として、大切に扱ってあげることが重要です。
今日の自分をねぎらうように、明日の自分へのエールとして、あなたなりのペースで推し活を楽しんでみてください。

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